リバティにて(ゼパル)


「お前、ここに来て何日になる」
 サングラスのタビットが、ゼパルに声を掛ける。
 低くダンディな声のこのタビットは、可愛い外見とは裏腹に金融業を営む盗賊ギルドのマスター・ジョージだ。
 ここはジョージが運営する『ウサギローン』の事務所。大きなテーブルに備え付けられた柔らかい椅子に深く腰掛けるジョージの隣で、ゼパルは護衛として立って見張りをしている。

 ゼパルはこの男に雇われてしばらく経つ。
 無一文だったゼパルは、冒険者として生きていこうと決めた日に旅支度に装備を揃えるため借金をした。武器バスターソードは無事に購入できたが、金を借りた人間が悪く、数日で借金が1万Gにまで膨らんでしまった。
 ジョージはその時の借金をまるまる引き受けてくれたタビットだ。
 今、ゼパルは悪徳金融者ではなくこの男から1万Gを借りた形で、借金返済のために用心棒として働いている。しかし給料はほぼ利息に消え、返済額は一向に減っていく気配はない。ジョージのところも、結局は似たような金融業なのだ。
 ただ利息が膨らんで額が増えていくこともないので、ゼパルはいくぶんかジョージのことを信頼してこの仕事をこなしていた。

「ゼパル、お前、この仕事向いてねえんじゃねえか。自分でも分かってるんだろう」
 ジョージはそう言うが、ゼパルにはあまりピンとこない。
 この仕事といっても、護衛対象が荷馬車や商人団から借金の取り立てチンピラに変わっただけで、護衛という仕事内容事体は以前とあまり変わっていないからだ。

「腕の見込みはあるんだが……。性格が金貸しってタマじゃねえよなぁ」
 ジョージは何か言いたげにゼパルを眺めていたが、やがて諦めたように席を立った。
「まあいい。今日は、返済が滞ってる例の店を、一件まるまるやりにいくぞ。ついでにあのよく分からんエルフの男をどこに売り飛ばすかいい加減算段つけねえとな。ついて来い」

 「まったく、あんなの、どこに売ればいいってんだ?」と小さく呟きながら事務所を出るジョージを後ろを、ゼパルは黙って付いていくのだった。



2021.08.28