リバティにて(ザール)


「諦めな、若いの」
 依頼人の親父がそういってザールに冷たい目を向けた。
 ザールはその無慈悲な表情に、背筋がサーっと凍り付くのを感じた。それは数年前に臨死体験をしたあの時よりも恐ろしく生々しい感覚だった。

 簡単な仕事だったはずだ。
 荷物の運搬。
 中身は知らされていないが、手持ちの鞄に入るぐらいの小包だった。だから油断していたのだ。一緒に依頼を請け負った冒険者の男が、その荷物を持ち逃げした。
 軽い中身だったので、書簡か何かだとザールは勝手に思っていたのだが、どうやら手のひらサイズの貴重な古代遺跡の産物だったらしい。しかもマナの込められていたマジックアイテムだったらしい。さらには金で装飾されていたため宝石としての価値もあったらしい。

 初めに交わした契約書には、紛失・破壊した場合、損害分を冒険者全員と依頼人で折半するとの一文が書かれてあった。
「1万Gだ」
 自分の支払う金額を聞いて、ザールは耳を疑った。
 持ち逃げした男は、もちろんその頭数には含まれていない。
「依頼人との折半だろ!?」
 ザールは男に詰め寄ったが、依頼人の親父は冷たい顔のまま、契約書の但し書きの部分を指さした。
 そこには小さい文字で、『過失の場合に限る。故意の場合、冒険者のみ負担』と書かれてあった。

「俺の故意じゃないだろぉ!?」
「同じ言い訳を盗賊ギルドの事務所でもしてみるんだな」

 親父の連絡で、すぐに金融事務所のチンピラがザールを迎えに来る。どうやらタビットたちの経営するローンらしい。
 サングラスをかけた渋いタビットの男が、ため息をつきながらザールを連行していく。
「今日はまったく、変な輩が金を借りにきやがるなぁ」

 このまま逃げるか?いや、逃げ切れるか?金融業の奴らは門番兵に金を握らせて見張りをしてるって話は本当なのか? ザールは頭の中でぐるぐると考え事をしながら、しばらくはタビットの護衛の男に捕まえられたまま歩いていくことにするのだった。
 それにしても隣で同じく捕まっているエルフは、一体何者だ?



2021.08.28